2026年(令和8年)6月24日に公布された改正法(令和8年法律第45号)で、後見・保佐・補助の3類型は「補助」に一元化されます。
「補助に一本化される」と聞くと、「今の補助(いちばん軽い類型)に全員が入る」という印象を受けるかもしれません。実際はそうではなく、新しい補助は、必要な権限を一つずつ組み立てていく器として作り直されています。どういう仕組みなのかをご説明します。
補助は、3つの審判のどれかと「同時」でなければ始まりません
新しい民法では、補助開始の審判は、次のいずれかの審判と同時にしなければならないと定められています。
| 審判 | 内容 |
|---|---|
| 同意権を付与する審判 | 特定の行為をするには補助人の同意を得なければならない、と定めるもの |
| 特定補助人を付する審判 | 法定の重要な財産行為を取り消せるようにするもの(後述) |
| 代理権を付与する審判 | 特定の法律行為について、補助人に代理権を与えるもの |
これらは組み合わせることもできます(代理権と要同意事項の両方、代理権と特定補助、など)。補助開始の審判が行われるのは、この5通りの場合だけです。
つまり、「とりあえず補助を始めて、権限は後から考える」ということができません。 申立ての段階で「何のために、どの権限が必要か」をはっきりさせる必要があります。
代理権は「特定の法律行為」ごとに決まります
新しい民法では、代理権を与える審判は「特定の法律行為について」行うと定められています。
現在の成年後見人が持っている包括的な代理権(財産に関する法律行為について本人を代表する権限)にあたる規定は、新しい補助には置かれていません。
これが今回の改正の中心です。「遺産分割をするために後見人を付けたいだけなのに、生活のすべてを管理されることになる」という状態を避け、必要な行為に絞って権限を与える形になります。
一方で、必要な権限が漏れていると手続きが進まないということでもあります。申立ての際に、ご本人の状況と、これから必要になる手続きを具体的に整理することが、これまで以上に大切になります。
同意権も「特定の行為」ごとに決まります
補助人の同意が必要な行為も、家庭裁判所が特定の行為を定めます。日用品の購入その他日常生活に関する行為は対象外で、ここはご本人がご自身で行えます。
家庭裁判所が定められる行為は、法律に列挙された11項目の中から選ぶ形です。現在の保佐で同意が必要とされている行為(借財や保証、不動産など重要な財産の処分、相続の承認・放棄、遺産分割など)を引き継いだうえで、次の2点が見直されています。
- 「預金又は貯金の預入又は払戻しの請求をすること」が新たに加わりました。 現在の保佐の一覧にはなかった項目です。金融機関での払戻しをめぐるトラブルが実務で多いことへの対応と考えられます
- 「新築、改築、増築又は大修繕をすること」が、「居住の用に供する建物の大修繕に関する工事の請負契約その他の重要な役務の提供に関する契約を締結すること」に改められました。住まいのリフォーム契約などが対象として整理されています
同意を得ずに行われた行為は、取り消すことができます。また、補助人が同意しない場合でも、ご本人の利益を害するおそれがないのに同意が得られないときは、家庭裁判所が同意に代わる許可を与える仕組みも維持されています。
ご本人の同意が必要です
ご本人以外の方が申立てをする場合、補助の開始にも、同意権を付与する審判にも、代理権を付与する審判にも、ご本人の同意が必要です(ご本人が意思を表示することができない場合を除きます)。
ご家族の判断だけで権限の範囲が決まるものではない、という点をご理解ください。
ただし、次にご説明する「特定補助人を付する審判」については、ご本人の同意は要件とされていません。
「特定補助」とは何か
判断能力を欠く常況にある方について、行為を一つずつ列挙していく方法だけでは保護が届かない場面があります。そこで用意されたのが「特定補助」の仕組みです。
要件
- 補助開始の審判を受けた方が、精神上の理由により事理を弁識する能力を欠く常況にあること
- かつ、必要があると認められること
- 申立てがあること(ご本人・ご親族等のほか、補助人・補助監督人からも請求できます)
特定補助には、ご本人の同意は要件とされていません。 判断能力を欠く常況にあることが前提となる仕組みのためです。補助の開始・同意権の付与・代理権の付与とは、ここが異なります。
また、特定補助を利用する場合は、原則として医師による鑑定が必要です(医師2人以上の意見を聴いたうえで、明らかに必要がないと認められるときは省略されます)。鑑定には費用と時間がかかりますので、申立てを検討される際の見通しに関わります。
効果
特定補助人が付されると、法律に列挙された重要な財産行為(前述の11項目)が、一律に取り消せるようになります。 行為を一つずつ定める必要がありません。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為は対象外です。ここはご本人の領域として残ります。
特定補助人の権限は、法律で次の3つに限られています。
- 取り消すことができる行為についての取消権の行使
- 意思表示の受領
- 財産に関する保存行為
ここが重要な点です。特定補助人であることだけでは、代理権は与えられません。 不動産の売却や預貯金の払戻しなどを代理する必要がある場合は、別に代理権を付与する審判が必要になります。
あわせて、特定補助人には財産の調査と目録の作成が求められ、必要があるときは家庭裁判所の審判によってご本人宛の郵便物を受け取る取扱い(期間は6か月を超えない範囲)も用意されています。
よくある誤解
誤解① 「いま後見を利用している人は、みな特定補助になる」
そうではありません。 特定補助は、判断能力を欠く常況にある方について、必要があると認められる場合に選択できる仕組みです。自動的に移るものでも、当然に付されるものでもありません。
いま後見・保佐を利用されている方の扱いは、いま後見・保佐を利用されている方へで整理しています。
誤解② 「補助には『通常の補助』と『特定補助』の2種類がある」
補助は一つの制度です。 特定補助は、その中で選べる取消権の仕組みであり、別の類型ではありません。実際、同意権を付与する審判と特定補助人を付する審判は、同時に存在させることができないとされています(一方の審判をするときは他方を取り消します)。
そして、判断能力を欠く常況にある方であっても、特定補助ではなく、行為を一つずつ定める同意権の付与を選ぶことができます。 「能力の程度によって使える制度が自動的に決まる」という現在の3類型の考え方から離れた点が、今回の改正の核心です。
誤解③ 「特定補助人が付けば、何でも代わりにやってもらえる」
代理権は含まれません(前述)。必要な代理権は別に申し立てる形になります。
必要がなくなれば、終わります
新しい制度では、家庭裁判所が「必要がなくなった」と認めるときは、審判の全部または一部を取り消すことができます。 判断能力の回復を待つ必要はありません。
さらに、補助人には年1回の報告が義務づけられ、その報告を受けた家庭裁判所が職権で取消しの審判をすることもできます。「使い始めたら終われない」という現在の課題への対応です。
まとめ
- 新しい補助は、同意権・特定補助・代理権のいずれかの審判と同時でなければ始まりません
- 代理権は「特定の法律行為」ごと。 現在の成年後見人のような包括的な代理権はなくなります
- 同意が必要な行為は法律に列挙された11項目から選ぶ形で、預貯金の払戻しの請求が新たに加わりました
- ご本人以外の申立てのときは、ご本人の同意が必要です
- 特定補助は、判断能力を欠く常況にある方について、重要な財産行為を一律に取り消せるようにする仕組み。代理権は含まれません
- 必要がなくなれば、判断能力が回復しなくても終了できます
ご相談ください
「どの権限が必要なのか」は、ご本人の状況と、いま解決しなければならない手続きによって変わります。当センターでは、申立書の作成から補助人等への就任までを承っています。
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